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黒川紀章
今回の審査の基準は,3つのクライテリアすなわち,1. 都市の公共空間をつくるというテーマにどう応えているか,2. デジタル・プレゼンテーションの内容,3. メンブレインのデザインに関する創造性,独創性,であった.
1等(Alex Chanほか)案
は,香港のもっとも混雑する駅を選んで,そこに車,人が透明でありながら分離され,排気ガスを上空へ排出するという案であり,道路空間にメンブレインを使った見事なプレゼンテーションであった.
2等(前田達彦)案
に,私は天国と地獄というタイトルをつけた.地下のポケットパークの恋人たちの涙の出るような重労働の結果,地上の水平のメンブレインに渦巻きの模様が発生し,それを石庭を観察するように眺めるというのは残酷なストーリーである.しかしその独創的なメンブレインの扱い方は,まことに面白いものである.
3等(Marc Bertolino)案
は,街のデッドスペースである建物と建物の隙間に小劇場をつくろうという案で,隙間を生かしてミニ公共スペースをつくる発想が面白い.また,ロールの状態でメンブレインを使い,巻き取って片づけるという独創的な仮説性がよかった.
私が次点と考えるのは,
Tower151 Architects案
と
Kagansoy Harun案
である.いずれもメンブレインらしい優れたデザインと魅力のあるデジタル・プレゼンテーションであったが,与えられたテーマに対するコンセプトの展開に欠けていたことと,審査員を積極的に説得するパワーが不足しており,十分に案の内容を理解することができなかった.
ほかの佳作案も,それぞれ着想は面白かったが,裏づけとなるコンセプト不足が敗因である.
青木淳
どんなに高度な方法でつくられようが,そもそもCGはデジタルと何の関係もありません.デジタルとは,なにかがつくられるときに,最終的にできあがるイメージからの逆算ではなくて,あるモデル設定の結果生まれてくるものを見据えることだからです.だから,JPEGで案を募ることは,そもそもデジタルとは何の関係もないことだったので,そこに何らかのデジタルな試みを期待するのは,期待するほうが間違っていたといえばそれまでかもしれません.
しかし,寂しい結果でした.唯一興味深かった案は,今いる場所の空気組成をその位置関係を含めたかたちで膜上に表示する仕組みを提案した
山田晃案(S114)
でしたが,この案は残念ながら「都市の公共性」というコンペのテーマとの接点が不明だったので最終選考に残ることができませんでした.この案はどんなモデル設定をしていたのだろうか,興味があるところです.ですから,最終選考に残った案は,都市の公共性とメンブレインの関係という視点で見せてもらいました.そのなかでは,自分が入ることができない世界と実際に自分がいる世界の境界を公共性ととらえた
Kagansoy Harun案
と,公共性を個人にいったん還元してそこから公共性が立ち現れる契機としてメンブレインの可能性を探ろうとした
YU KA WAH Janet案
の,ふたつの作品だけが正面から公共性についてとらえていると思われました.それ以外の案は,ぼくにはまったく理解を超えていました.
来年はもう少しまともな応募方法になると思います.すでに突入しているデジタルの時代にふさわしい案を期待しています.
大江匡
メンブレンという構造もしくはシステムと公共空間といったまったく異次元のテーマ設定が重層しているというダブルバインド的状況に追い込まれかねない題目に対して,参加者たちは,非常に興味深い回答をしたと思う.おおむね回答のかたしはふたつに分かれると想定される.ひとつは,メンブレンという構造システムの特質が,何らかの方法で新しい公共空間のモデルを切り開くことができないかというものである.産業革命直後に鉄骨造の建築が,デパート,駅といった新しい公共空間のモデルをつくったように,この素材の特質を生かしたモデルがあるのではないかという想定である.もうひとつの方法は,ある公共空間におけるいくつかの回答モデルの中に,メンブレンシステムがたまたま適切だというものである.たとえば,特定の敷地に対する公共空間の回答に対して,メンブレン構造を使うことが解答となるという想定である.本来のこのコンペの趣旨からいうと前者に回答が期待されるのだろうが,今回入賞したものは,どちらかというと後者によったものとなったのではないかと思う.
1等となった
Alex Chanグループ
の回答は後者の典型となるものであるが,デジタル・プレゼンテーションの質の高さとその解決の素直さが見られる.2等の
前田達彦案
は,叙情的なプレゼンテーションと共に,前述のどちらともとれるアンビギュアスな形が成功している.3等の
Marc Bertolino案
は,都市の隙間にメンブレン構造を使うという,その構造特質を適切な形で処理することによって,公共空間に対する解答を提示している.
小嶋一浩
海外からのプレゼンテーターが過半を占め,全員がノートパソコンを用いて行うプレゼンテーションの公開審査は,ほどよい緊張感のあるものだった.「都市の公共空間」「メンブレイン」「デジタル」と異なる評価指標に対して提案も多様であったが,10作品はいずれも最終審査に残るだけの質をもっていた.そんな中で私はベスト3に,現時点での「リアリティのあるもの」「わかるもの」よりは「可能性を感じるもの」として,
Kagansoy Harun案
,
Yu Ka Wah Janet案
,
Tower 151 Architects案
を推した.「可能性」が同時に「危うさ」にもつながってしまうという共通点をもったこれら3案は,結果として佳作に終わったが,おのおのの視点のユニークさに共感を覚えた.
Yu Ka Wah Janet案
は1次審査で日本の文化的感性から生まれた案だと勘違いしたが,今やこうした軽やかさはアジアに共有されているようだ.
Kagansoy Harun案
は,公共空間に対するとても優れた構想であったが,メンブレインで水槽をつくり出せば成立するところに金属のメッシュフレームを加えてしまったことが惜しまれた.
Tower 151 Architects案
は,難解でやや独りよがりにも見えるが,デジタルの特性を利用したプレゼンテーションが格好よかった.
デザインコンペであるから,空間のもっている〈ちから〉を使った未来への向けての提案が期待される.デジタルツールと映像のセットで,どのように〈スペース〉そのものを印象づけるか,ということがこれからのテーマになるだろう.
播繁
新しいミレニアムが始まる.
今,社会は急激に変動している.長い歴史のある「メンブレイン・デザインコンペ」も今年度デジタル・プレゼンテーションによる公開審査に変わった,はじめての試みである.情報技術(IT)を使いこなしているかも審査のポイントとして加わることになった.以前からこのコンペは外国人の応募者が多いと聞いていたが,デジタルに変わったことで,なお一層その傾向が増したように思う.ITの発展と共に世界はボーダレスとなった.第1次審査で入選となった10作品のうち,8作品が外国人であったのに驚きを感じたのは私だけではなかったと思う.日本では,連日IT革命という言葉(あまり正しい言葉ではないように思う)が新聞紙上をにぎわしているが,このコンペでの狭い世界でも,日本の立遅れは明らかである.
1等(Alex Chanほか)
となったのは香港の学生たちの作品で,膜という素材を生かしたデザインと混沌とした都市空間に対する適切なソリューションを会場の人びとに映像で伝えたプレゼンテーションが秀逸であった.そこに情報空間と人間的なつながりが構築されていたからであろう.
さて,このコンペでの最大の収穫は何だったかと考えてみると,情報技術と公開コンペとの組合せが,新しい価値観として生まれたことで,今や情報はどこにいても入手することができるが,それをプレゼンテーションする人と共有する空間(コミュニティ)を提供できたことではなかろうか.
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