アイデアコンペでは、一般的にフィーリング、コンセプト、リアリティーの兼合いが重要であり、応募者にとっても、審査員にとっても、この辺の判断がとってもむずかしい点であるといえるだろう。特に近年のCAD技術の進歩によって、いわゆる「もっともらしい」絵が簡単につくられるようになってきた現在、しっかりしたコンセプトも、リアリティに対する検討もないままに応募案が出来上がってしまう危険に対して、応募者も審査員も注意を払う必要がある。もちろん現実の設計を前提にしたコンペではないから、リアリティに対する細かい検討は必要ないし、それよりもむしろのびのびとした案を審査員側も期待していることは当然であるが、やはり大きな破線をきたすことなく実現できそうな案にめぐり会いたいという希望は、捨て難いのである。
1等の佐藤案は、水面下に設計されたメンブレインを空気圧によってコントロールし、人工島を形成しようとする案で、コントロールのしかたや、洪水時の対策など、リアリティに対する問題がなくはないが、原理の明快性、スケール感、イマジネーションの点で、群を抜いていたといえよう。2等のMolina+他2名案は、リアリティはともかく、見る者にある種の夢を与えるという点で評価された。3等の佐々木案はやや類型的なアイデアではあるが、十分なリアリティをもち、健康な発想であるという点で好評を得た。今後は冒頭で述べた点に留意した応募案が増えてくれることを願っている。
今回の応募案は、いろいろな方向を示して拡散していたといえるが、その中で入選案について敢えていえば、見えなくなった都市をいかに可視化するかというテーマが見え隠れしていたかもしれない。例えば、1等の佐藤案は、かっての栄光を失った大都市の河川を扱っており、膜の可朔性をうまく利用して新しい風景から、河川の新しい魅力をつくり出している。最近のレトロスペクティブな河川改修と一線を画する現代的で優れた案である。2等のMolina+他2名案は、鉄道と街の関係に言及している。ブエノスアイレスの郊外のこの駅は地下鉄のように谷部に駅があるらしく、見えない存在である。駅の上部の幕の「反射鏡」が低い位置の鉄道を映し出し、駅の中からは映りこんだ街の様子が見えるというわけである。プレゼンテーションが詩的で的確である。このアイデアを私は昔、見たことがあるが、それは別にしても、膜を使う意味が乏しいことが欠点である。3等の佐々木案の大きな緑の固まりは時代の雰囲気をよく表現して好感を与え、しかも単純で力強いが、同時にそれ以上のものはない。佳作1席の渡邊案は、鉄道の動きを天井の動きに変換するというアイデアとデザイン的洗練が魅力的であるが、実現した時の膜の挙動に疑問があり、またインテリアであるということもマイナスであった。その他、佳作の中では、Kolesnikov案のファンタジー、Barr案のランドスケープとの調和が心に残った。
メンブレインの技術的な観点からの提案や社会的な意味からの提案は出そろってしまったのだろうか、今回の応募作品は多岐にわたっていておのおの見るところはあるのだが新しい提案はなかったように思う。そうした閉塞的な状況から抜け出ている。あるいはどこか吹っ切れていて爽やかさを感じたのが2等になったアルゼンチンからのMolina+他2名案だ。ただこの案はメンブレインそのものの可能性については何も説得力のある提案がなされていない。街の光景と駅の光景を巨大な反射映像によって相互に見せるという手法は過去にもあるし、実際にもありそうな気がする。ただこの案の単純明快さがある自然さを感じさせる。技術を追及するのでもなく意味を掘り下げるのでもなく、ただ現実を少し操作しようというだけなのだがそこに魅力を感じる。佳作の中藤案もメンブレインの特性に着目した案ではないが、この類の観念的な提案の中では独特の指向性があり興味深い、1等の佐藤案は形態的には見慣れた感じはするがなかなか美しく、水との関連が環境的な広がりを与えている。また水の動きや圧縮に応じて膜が変化するという動くイメージのとり入れ方も上手い。私個人としては膜のもつ観念的な世界は限りなく広く深いと思っているのだが、どうも膜がデザインの道具や素材として扱われている案がほとんどである。膜そのものの内面的な可能性の追及はまだこれからなのだろうか。
今回の審査はきわめて難航した。突出した案がなかったせいである。1等になった佐藤案の「エレメンタル・レギュレーターとしてのメンブレイン」は、大阪の中心地である中之島付近を水上バスのためのステーションとしてデザインしたもので、水に沈んだ駅が水上に浮かび上がってくるというアイデアは秀逸である。パースの印象が「横浜港国際客船ターミナル」のコンペ当選案に似ているのが惜しまれる。2等のMolina+他2名案「プロモスランド」は駅というものを都市側に反射させるというアイデアでメンブレンをどのように使用しているか議論のあった所であるが、その詩的な表現を評価されたと思う。私自身がもっとも推したのは3等佐々木案の「アーバンクロワッサン」である。構造的にもリアリティがあり、緑の駅を実現させている。CAD全盛の時代にあって、ほのぼのとしたドローイングが好感を呼んだ。佳作では膜のもつ表現性をテーマにオブジェテックな造形にまとめたKolesnikof案「ビジブルステーション」がよかったし、渡邊案の「パフォーマンス・ウイドゥ」はのテクニックを使ったスマートなプレゼンテーションがアピールした、天井のみにメンブレインを使用した点が物足りなさを感じさせたが、表現的にはとてもおもしろさを感じさせた。その他選にはもれたが「都市の波紋」や「ビトウィーン・アース・アンド・スカイ」もそのドローイングの巧みさが印象に残った。今回の課題はかなり身近なテーマであったと思うのだが、現実的でかつデザインの提案が少なかったのは残念であった。流行に流される事なく、自分のアイデアを大切にデザインされる事を望みたい。
飛び抜けた考えやイメージが生まれにくい時代になったなというのが審査を終えての率直な印象だ。情報機器の発達、メディア機能の拡大、共に発見的な姿勢を稀弱なものにしている。あらゆるアイデアがすでに見たことがある類のものに思える。そして大がかりな独自性を目指すモノには滑稽感さえ漂ってしまう、まったく困難な時代の渦中にあることを実感させられてしかたない。
1等の佐藤案の形は「横浜港国際客船ターミナル」(A.Zaera-Polo.F.Moussavi設計)案のコピーである。それを了解した上で、都市内にあり得るかも知れぬ自然のエネルギーが視覚的に表現されているのがとりえだ。
2等のMolina+他2名案には一番親近感を感じた。技術がどんな目的のために奉仕しなくてはならぬのかが、端的に表現されている。何の技術的コメントも附加されていないが、メンブレイン構造そのものが、どんな素材の開発を要求するようになるのかが、芸術的直感をもって示されていると見たい。技術的に高度な鏡面の存在が都市の風景を変えてゆく可能性だってあるのだ。
佳作のVilarrasa+Baiges案、ヴェネチアのサンタルチア駅への提案は惜しかった。主題、場所の設定共によいのだが、デザインが強すぎてヴェネチアに合わない。燗熟して崩れつつあるヴェネチアのような都市に似合う構造的実験が発見できたら、どんなに面白いだろうにと思う。佳作のKolesnikoi案、ウクライナの大地、土の匂、鉄錆びの匂いが図面から香り立ってくる、ノスタルジックなテクニック、サーカスのイメージがよく描けている。