第1回キャンバスを使用したテンション構造構築物設計競技


審査講評


星野昌一(審査総評)

キャンバスという膜面を利用した新しい構造に適したデザインのあり方を求めた。この設計競技は100点に近い応募作品をえて、わが国最高と思われる審査陣による審査結果がここに示されたわけである。
この種の設計競技としては最初のものであっただけに、応募者の苦心や迷いは大きかったものと思われるが、なかなかの力作が集まったことは大きい成果といえよう。
応募案の特色はとしては、あまり低俗のものが少なかったこと、一応考えられる各種の形式のものが網羅されたこと、構造的なアイディアのほか、建て上げの手法まで考えたものが見られたことなどであるが、その半面、なかには既存の形式を安易に借用したものや、科学空想画的な実現性や経済性を全く無視したものも見られた。これらのなかから現時点では実現不可能と思われても、将来性のあるものは、なるべく取り上げたいと考えたが、基本的な考え方に無理のあるものは結局、最後まで残らなかった。しかし、部分的に工夫のあとの多いものは、何とかそのアイディアだけでも記録にとどめて今後の開発に役立てたらよいと思っている。
●最優秀作品
  この案は、使用上の障害になりやすい地上にアンカーするための張り綱をやめて、ブレベンドされた曲げ圧縮材と細かく分割され引っ張り綱によって、はね上げ形の骨組を放射状に構成し、ワイヤーで主要部を結合してキャンバスをその上面に張ったものである。構造的にも独創性があり、造形的にも特異性をもっているので最優秀作品となったが、ブレベンドの効果や雨水処理などに多少問題が残ると思われるが、周辺に広い空間がとられる点で有利であろう。
●優秀作品森案 
内圧円形チューブを水平方向に積み重ねて回転面を構成したもので、水中に浮かせるアイディアを示しているが、実際には風に対する安定性などに問題があると思われる。しかし、膜面だけを利用したダイナミックな造形は、その発想がすぐれており、最優秀作にまさるとも劣らざるものと評価されたものである。
●優秀作品石井案
ピン構造の柱で支えられたつつみ形キャンバスで構成されたユニット枠に1重または2重内圧屋根キャンバスを取り付ける形式のもので、自由な平面構造が可能な特色をもった力作である。しかし実際面ではつつみ形キャンバスの製作や形状の保持などに苦労すると思われるが、新しい造形技術的な立場からの苦心作として入選したものである。
●優秀作品青野案
内圧アーチと内圧スラブを2重膜面で構成したごく単純な構想のものであり、加圧チューブを内臓した支持枠に工夫がほどこしてあるほかは格別の長所もないが、素直な自然さが買われて入選したものである。入選しなかった作品にもなかなか力作が多く、最後まで入選作としのぎをけずったものが含まれている。
●佳作中山案
2本の大支柱を中心に対称的に円形平面のテントを張った案。これに似た構造のものがすでに提案され実現計画があることから、図面のまとまりとしては、すぐれていたけれど結局、佳作となったものである。
●佳作田坂案
おりたたみ式の内圧シャフトをもつ構造のものも発想に新奇性があって評判がよかったが、風に対する安定性などに問題があり佳作となった。
●佳作高橋案
3角形に組み合わせたパイプのスペース・フレームにキャンバスを張った案で、キャンバスが意匠的に使われている点はよいが、構造体として寄与していないので佳作となったものである。
●佳作磯辺案
1本の中央支柱に吊られた多くのテント群の案で、張り上げなどの便利さはあるが、中央支柱の形状の練りが不足であるというので佳作となった。
●佳作佐々木案
競技場の周辺に三角に立ち上がったキャンバスを日覆として、使っている案で、ごく単純な発想であるが実用的な意味があるというので佳作となった。

その他、これ以外にも部分的にはすぐれた発想のものが数多くあったが、総合的観点からみて検討不足の点があるため、または表現力の乏しさから選にもれたわけである。
今回の競技に刺激されて、今後、これに類する新構造の競技が行われる機会が増えれば、回を重ねるごとに発想と技術の向上が積み上げられ、面白い作品がどんどん案出されるものと期待される。
その意味で第1回としては、収穫の多かった今回の応募作品の真剣な努力に感謝の意を表したい。

坪井善勝

このような“アイディアコンペ”は日本ではめずらしい試みであり、したがって出題の解説も十分親切であったとはいえません。また、審査を担当された方々もそのテーマの把握にかならずしも一致した見解をもたれた思いません。しかし、応募図面約100点の大部分にしれぞれ独自の解釈と燃える創作意欲とを感じたことは審査員一同の喜びでした。ほんとうにご苦労様でしたと応募者各位に申したい。
審査にあたっては、テンション構造つまりダイナミックな表現の仕方、直感的および理論的な力学上の合理性、テンション構造をおこなう意義、その対象、現在または近い将来における実施の可能性などが個々の設計図書について論じられました。

糸川英夫

  最優秀作品は、やはりデザイン的にもいちばんよかった。入選作品は大体、同じ傾向のものが選ばれたようだ。
私として印象深かったのは、海中で使うテントの提案がわりと多かったことである。それらは入選しなかったが、建築に関係する人たちが、海洋開発の問題と真剣に取り組んでいたのは結構なことだと思う。ただ、海洋の事情にうといとみえて、技術的におかしいところもあった。
入選作は、いずれもテンション構造をデザイン的にうまく使っているので採用した。問題は風雨に対して、どう処理するかということである。最優秀作品にも、施工上、今後の問題として残される点もあるが、技術的には可能なので推薦した。

亀倉雄策

私がほしいと思っていたようなテントについては、ついにおめにかかれなかった。空想映画にでてくるようなテントと実際に実現できるテントとの差が、あまりにも大きすぎた。実際的なものは平凡すぎたし、空想的なものは子供っぽかった。形と機能を練り上げたものがほしかった。グラフックデザイナーと建築家が協力して、色彩、造型それに工学的な処理をあわせて完成したものを今後のコンペに期待したい。

前川国男

正直いって私は今回の競技設計にあまり満足していない。応募する側にも問題があったが、企画の側にも何かうまくないことがあったと反省される。審査員の末席を汚したものとして責任を感じている。
テンションを利用した構造と規定したからには、もちろんその技術の原理的発展を期待したものではなく、それは部分的改良、展開を求めたものであったろう。だとすれば、問題提起があまりに一般論的、いいかえれば原理的発展を求めるような面構えが強すぎた。
このよってきたるところが総じて浮き足だった現下の諸情勢ーーー社会・経済・学会・業界を含めてーーーでなければ幸いである。そしてこの情勢が建築界の創造力の枯渇につながらぬように祈りたい。

棚橋諒

卒直にいうと、感心するような作品はみあたらなかった。応募者の多数が建築家で堅い材料を使いなれた方がおおいので、そういう結果になったのであろう。軽金属でつくったほうが面白いような案もあったが、それらは、コンペの趣旨からはずれているので選外にした。地鎮祭などで使われるテントでも千編一律で、なんとも面白くない。次回の募集ではすぐれた提案ができるよう期待したい。
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