審査講評
菊竹清訓(審査委員長)
今年度の膜構造学生コンペも、昨年に引き続き、きわめて大きな関心をよび、多くの作品が寄せられ、審査員はこれらの作品を前にして議論し、膜構造の在り方について考えさせられ、貴重な意見の交換を行うことができ意義深いものがあった。審査を通じて今後の膜構造の発展にいささかの希望をもつことができるように思われたことは、何よりであった。
ひとつの反省としては課題を駅にしたことで、これがかなり創造力を制約する側に作用したのではないかという危惧である。むしろ今日の都市的空間のひとつとして、駅は身近な存在であり、この空間の変革が望まれているとの判断から選ばれたものであったが、交通のトランスファーの問題は専門的な内容をもっており、簡単にはアプローチしにくいものであったことも事実で、この点はコンペの成果を拡大することにならなかったのではないかと惜しまれる。
しかし表現の方法という点で見ると、全体として活発で構想やアイデアにこそ自由性が求められる学生コンペであるところから、技術的な面では多少の問題を残しているものでも、新しい問題を提起しているものは積極的にこれを評価しようということで、審査員みんなの同意が得られ、そういう観点から審査が進められた。
それだけに、表現の未熟さや不完全さ、また専門的なアプローチに、今後いっそう努力が欲しいところである。
しかし結果的に見ると、入選案はそれぞれ非常にユニークな発想が見られ、またアイデアの展開に、魅力のあるものが選ばれ、よかったと思っている。
これからこの種のコンペの課題としては、やはり何とか、アイデアだけに終わらせず、部分的にでも実現するような機会がつくられることになれば、もっとエキサイティングなコンペになることであろう。
ぜひ実現してみたという作品が、最優秀賞、優秀賞にそれぞれ選ばれただけに、こういう気持ちを持たれた審査員は私だけではないと思う。
膜が都市空間の中に入り込み、新しいいきいきとした環境を演出するという期待が強まってきているとき、こうしたコンペによって、膜の限界が次々に打ち破られようとしていることは誠に心強い限りで、コンペの審査にあたった者として、おおいに勇気づけられるものがあった。
コンペに参加された皆さんの努力と熱意に敬意を表し、太陽工業が引き続き、コンペの企画を通じて、膜をさらに拡張されることを望みたい。新建築社がコンペによってより多くの人びとの参加の機会をつくられていることは、建築の認識を深める上での貢献として、これを高く評価したい。
メンブレインの可能性を重視した結果となった。今までに実現されたものの焼き直しの案は、それぞれに表現の密度が濃く、感心できるものも多くあったのだが、むしろ雲を包むような中から可能性を秘めた物を選ぶ方がよいと思った。
メンブレインを単位スケールに割って考える方法は、今回の都市的問題からはあまり納得できなかったので、一体に膜が使われているものの方を選んだ。
どうしても、一枚の大きなスケールの膜がふわりと登場し、後をどうするかが問題となってくる。そのとき技術的問題に関心を走らせてしまうと、どうしてもサポートの構造とのアンバランスが生じてしまう、ということを見せてもらったことは、私としてもよい勉強をさせてもらった。
最優秀案(古池案)は、クジラという表現だけでヤラレてしまったようだった。ただ、膜の上に海が被っているという発想自体は買えた。臨海都市として発達している日本の大都市、あるいは世界の大都市に、その潮の表面という一種のメンブレイン(?)がリリカルに扱われる可能性はおおいにありうると考えられたからである。
さらに進んで考えれば、水面下の都市に光を導き、また水のフィーリングを与えるために、新規素材としてメンブレインは十分にありうるのだし、交通手段としても上に水上バスや、ヘリポート等として水面を使えば新しいステーションたりうるのである。また、干潟のようにして現れてくるメンブレインも、その大きさや、上に植栽が乗っている可能性等もおおいにある。上を滑る面として考え、ウオータースライダーにすることもできる。優秀案(戸川案)もメンブレインへの色彩光のプロジェクションとしておおいに買えた。
はじめは低調かと思われた応募案だったが、結果的には面白いコンペとなった。
川崎 清
膜構造と交通の結節点というテーマの組合せが面白く、発想の面白い、バラエティに富んだ提案が多く寄せられ、大変楽しい気分で審査に参加することができた。
表現はともかくとも、アイデアの優れたもの、コンセプトの面白いもの、イメージの膨らんだものなど、ユニークな発想を重視し、ついで表現の優れたもの、センスのありそうなものなどを選択の基準とした。
最優秀案は、表現技術にやや劣るが、奇想天外な発想が面白く、今後のウオーターフロントや大陸棚の開発など新しいエリアにおけるステーションの在り方の示唆を与えるものであった。
優秀案は、膜構造とイルミネーションの捉え方がもっとも美しい作品であり、さまざまな光や映像あるいは音楽など、環境的なデザインに対する提案として優れたものであった。羽衣というテーマともぴったりした表現で好ましいものであった。
惜しくも佳作となったが、屋台(石原案)は、巨大膜構造の提案の多い中で、駅前の界隈性にあった提案として面白く、表現や技術性、バランスがとれていて興味をもった。大嶽案は駅の性格と表現がうまく、都市的な捉え方などが印象に残った作品であった。努力賞の吉田案は求められた主題に対して少しずれていたが、都市の上空にゆっくり回る風車を想像すると、楽しくなる作品であった。
全体として表現に優れたものが多く、模型やCADを駆使して表現技術の進んでいることをうかがわせるものが多かったが、惜しくも選にもれたものは、表現と内容のバランスがとれていないとの理由による。せっかく努力したのに選にもれたと思われる向きは、この辺のことを考えて欲しい。
坂本一成
ステーション=トランスファーと題したメンブレイン・デザイン・コンペは、この課題が示すようにやや抽象的色彩をもったことにより、大変扱いにくいコンペだったのではなかろうか。事実多くの応募案はそれぞれ多くの苦労が見られるものであった。特にメンブレインとステーション=トランスファーを結び付けることの困難さを感じるものが多かった。入選したものも必ずしもこのふたつの内容の幸福な一致が見られるものではない。それでもそれぞれの応募案はどちらかに重心をかけ、積極的な提案をしていたことに感心した。
最優秀の古池案は雑な図面表現からは受け取りにくい面白い内容であった。今まで私達が知っているメンブレインの扱いを超えたユニークな案である。覆うものでありながら受けるもの、しかもそれが潮の干満で変化するという大変おおらかな構成である。内部に電車らしきものが描かれ、鉄道と絡んでいる様子もあるが、もうひとつステーション=トランスファーとしての意味ないし表現がないのが残念であった。
佳作・努力賞は今まですでに知っているイメージ、内容のものが多かった。特に小野里案、石原案はまじめに、ていねいにイメージを内容化していて好感をもった。また大嶽案、若山案はイメージに興味がもてた。全体として、学生らしい多くの若々しい感覚と思考に会うことができ、楽しい審査ができた。
21世紀には人口4,000万にならんとする東京一極集中は、文明史上他に類を見ない現象であることはいうまでもない。故に、多極分散型への社会構造の変革が急務とされ、リニアの導入やネットワーク型交通網体系整備等が模索され集中解体への構造移行が急ピッチで展開されはじめようとしている。ここに新たな多くの複合要素を備えもった結節点としてのステーション=トランスファーの出現が予測される所以である。加えて、豊かなライフスタイルの創出エネルギーも、ステーションに新たな役割や場の認識そしてイメージの高揚を促すに違いない。
しかし、提出作品全体の第一印象として、テーマの設定が近未来のための今日的命題にもかかわらず、イメージで訴える作品が多く具体的提案に乏しい点にもの足りなさを禁じえなかった。
その中で、優秀案の戸川案と佳作の大嶽案は膜に色彩をもち込みランドスケープデザインとしての語りかけが感じられた点が新鮮で、前回にない傾向の提案といえる。
また、最優秀に選ばれた古池案は水と膜の関係の着想に面白さが見出されたが、技術の理論建てに明瞭さを欠いている。また、ステーション=トランスファーとしての条件設定にももう一捻りの具体性が盛り込まれてはどうだったであろうか。
そして、前回同様、メンブレインの特性を生かしたムービングシステムを取り入れた案も多くみられたが、動かすシステムの提案に終始して、何のために動かすのかの動機に乏しいものや、動きが生じた場合の膜面の変化への考察にも乏しいものが全体を占めていた。そのような中で、佳作の石原案は人の動きのレベルでの提案が見られ興味をひいたが、その形態に独創性を欠いたのが大変残念に思われた。
最後に、余談として、ふたつの事柄について触れておきたいと思う、ひとつはメンブレインとは薄膜を意味しており、材料的には薄肉ステンレス板でもその範疇にあることであり、もう一項として膜材料の歴史は、近い将来必ずガラスが辿った道に似た、いや遥かにそれを凌ぐ発展の可能性を秘めているという予測である。すなわち、発電蓄電能力や発光性能といった機能性を帯びた膜材の出現である。
メンブレインの特性は、軽量性や、可動可変機能に容易であること、また自在な拡がりを表現して多彩であるが、加えてこれら機能性膜材の将来の中に、次代に向けての自由なアイデアを期待するものである。
松井源吾
古池案の屋根の上に水がのるという発想は卓抜である。このように平たいシェルは風による吹上げが大きく、水がそれを抑える。また長辺方向のチューブは常識的な短辺方向より面白い形になる。それにしてももう少し迫力のある表現が欲しかった。また交通という意味で、「地下鉄から船に」という風な説明があったほうがよかったと思う。昨年は1名も入選がなかったのに、今年最優秀が早稲田である。構造計画を講義している私としてたいへんうれしく思っている。
戸川案の全く自由な発想には、感心するものの、もう少し、工学的考案が欲しかった。たとえば建物と膜との関係など。
野地案はのびのびした案でたいへん楽しい。ただ陸上と海上の交通の関係など、考察があまりされてなく残念である。吉岡案は膜についての考案、動く屋根など魅力のある案である。ただそれらの必要性ということを考えると、それらが生かされてないのではないかと思う。佳作の石原案においてはシェルターが移動できるというのが面白い。その上のシェルターとなる膜は、自由とはいかないであろう。しかし個々の膜は常識的だが、確かな設計である。
総括して、昨年に比べて現実的なものが多く、学生らしい夢の多い作品が少なかったと思うのである。
一枚の風呂敷こそが、メンブレイン・デザインの原点であろう。広げて被せたり、覆ったり、畳んだり、ぶら下げたり、包んで運んだり、非常に可能性のある、多様な表現が可能な素材である。
学生に限定されたこのコンペの趣旨から、思いがけないアイデアや使い方、表現を期待していた。ところがよく知られた構造形式や表現方法の範囲で、新鮮な驚きを与えるようなものが少なく、しかも今風の傾向を反映していたり、コンペの限界のようなものが感じられた。減点法によって選択する一般的なコンペとは異なり、夢が大きければ大きいほど、技術的困難が大きければ大きいほど、その解決がシチュエーションを想定する楽しさがあるというのがこのコンペの特徴であろう。既知の安全確実な案であっても、思いがけない使われ方の提案があれば、好感がもたれていた。特に最優秀案については、高張力で張られた膜と満ち干きをする潮水という意外性から、結節点としての駅舎が海と陸を継ぐ(例えば英仏海峡トンネルの鉄道の駅などの)イメージを彷彿とさせるところが、審査員の心を動かしたようだし、完成度の高さよりも新鮮なイメージこそが、困難を克服する原動力になることを示しているといえるだろう。
優秀案の場合もまた一種のシェルターとしての膜であることを突き抜けて、表現のメディアとしての確立を目指していることが、注目されたし、そのイメージの実現の可能性は、幾多の困難を解決して行くのにふさわしいテーマを掲げているといってもよいだろう。フライ・オットーやバックミンスター・フラーなどの都市的スケールにおける膜構造の可能性というのが、究極的なメンブレイン・デザインだと思われる。またこの次に期待したい。
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