学生のための
'90メンブレイン・デザイン・コンペ

審査講評


菊竹清訓(審査委員長)

審査において、審査員各位の御協力により意見が一致し、順調に結果が得られたことは誠に幸いだった。膜構造独特の構造的かつ意匠的な特徴のため評価が分かれ対立する場合が多いが、これが他のコンペの審査と違って面白いところでもある。今年度は応募が161点と増加し、コンペは年々盛大化しているといえる。これは、膜構造の社会的関心の高まりを反映していると考えてもよさそうである。それだけ作品の質も年々上昇し、前年を上回った感がある。次第に膜構造がデザインの対象として捉えられてきていることを感じさせる。審査の中で、私はバザール船の案に興味をひかれたが、すでに同様のアイデアの船が先行していたのは、残念であった。最優秀賞の超伝導で浮遊する膜の提案は、まだ実用化は無理だが、イメージとしての考え方を買って未来へかけるという意味で評価した。デザインプレゼンテーションもなかなか腕のたつ人のように思われた。優秀賞は、特殊な膜による空気圧の加減でうねりをつくりだす案で、意図は伝わってきたが、なかなか難しい点(たとえば雨がふりこんだり、風圧で移動したりなど)も見受けられた。だが、膜に対する素材開発を含めて評価された。この他、佳作で目についた案には、オアシス即バザールを根源とする案、素朴な小屋掛けの案やトラックの装置で街並を演出する案など多種多様のアイデアが出され、これからのコンペにつながる期待がもたれた。コンペの状況を眺めて感じることは、構想の段階、技術の段階、そして造型の段階が全体として充実する兆候を見せはじめていることで、審査員にとっては楽しみになってきたように思う。最後に、受賞者の方々に対し心からお喜びを申し上げ栄誉を祝福したい。またこうした新しい領域の「膜構造コンペ」を続けて主催されている太陽工業に対し敬意を表し、企画運営された新建築社のご苦労に対し御礼を申し上げ、講評を終わりたい。


十代田昭二

まず、審査会場に入ってその応募作品の多さに驚かされました。あちこちに厚く積み重ねられた作品のひとつひとつから、発散している学生の熱気に圧倒されました。作品を手にすると、次ぎから次へとそれぞれの夢が語られており、もう楽しさ一杯で一気に全部拝見しました。いつにあっても空は垂直な無限の夢を含み、その空にさまざまな手段で浮かそうという試み(ガスで浮いた雲であったり、超伝導で浮かばされた巨大なアメーバーであったり、気球であったり)。浮かすという発想は同じでも、水平な無限の夢を与えようと水に浮かしたもの、さらにそれらに積極的な動きを与えて、夢をかなたに伸ばそうというもの。波立ったような動的な造形が美しさを強調しているもの。抽象的な音や光や水・風との結合を求めるもの。朝顔や雲のような造型的なやさしさを追ったもの。他の建物・建造物との能率的な結びつきを考えたもの。しかしこれで楽しんではいられません。作品を選ばねばなりません。どうにかお役目は果たしましたが、それは難儀なことで大変な苦痛を伴いました。ところで実現可能という意味では離れすぎたものも多く、人と人との触れ合うプラザへのつっこみも弱く、総体的にもう少し技術的・デザイン的にきめ細かい対応が欲しかったと思います。

出江 寛

最優秀:URBAN FASCINATION/マイスナー効果による「磁気浮上」は魅力的だが、実現可能か疑問だ。だが、これ位夢やロマンがあったほうがこの種のコンペでは面白い。図面表現もオシャレでよかった。
優秀:DUPLEX CLOUD/新しい膜構造を雲のイメージで提案しているところが面白い。夢があって楽しい提案。
佳作:DREAM OF STREAM/華やかさがなく第1次審査で落ちたが、河の水力を利用して天膜を張る着想が面白く、最終審査で推した。だが表現に華が不足。
佳作:風のバザール/ 優秀賞と競いあったが、全体としてデザインが硬い。テント(天膜)の張り方のメカニズムも曖昧である。
佳作:潮/これと「潮騒」(小笠原案)のどちらを選ぶかで論議が起こったが、華やかさで「潮」が選ばれた。“潮”というテーマとしては潮の干満を利用した「潮騒」の着想の方が優れていたがデザインおよび表現が今一歩であった。
佳作:砂漠の泉/砂漠の昼夜の温度差による結露現象を利用し水をつくり、緑のオアシスのバザールをつくろうとした点を評価。華やかさがなく第1次審査は落選したが、最終審査で敗者復活し、入選となった。表現力を勉強すべきだろう。

左高啓三

今回は特別な印象を受けた。まず他のコンペと比較して勝るとも劣らない応募数とまじめな取組姿勢、内容の充実等に学生諸君の膜建築分野への熱意と期待を感じたこと。そして、今日的な具体性を持つ提案が多かった第1回、環境装置としてのマクロ的イメージ提案に片寄った第2回を経て、未来の科学技術の進歩を踏まえた夢の具体的提案、例えば細部のスケッチを交え膜材料自身への期待を追求した作品の出現などである。未来を敏感に予感し予想する特権を持つ学生諸君が、“膜建築”の新しいフィールドの大きな可能性に目覚め、反応しはじめたと考えるなら、今回は90年代の幕開けにふさわしい内容のものであったといえる。その代表が最優秀今井案や努力賞馬場案だ。が、着想の域を出ておらず、建築的な“場”の設定やデザイン的展開に具体性が欠如していた。加藤案は、膜建築の近未来のあり方を伝える点で着目したが、バザールとしてのデザインの不自由さや柔らかさの不足から佳作になった。最後に木村案は膜材料自体を音の設備環境コントロールに用いた点で興味を引いたが、膜材料の具体的設定があればと残念である。だが「今回のコンペは未来に多くの可能性を秘めた建築分野としての認識が、学生諸君に容認されはじめたメモリアルである」との指摘は記憶に値する。

鈴木エドワード

一般的にプレゼンテーションが弱かった。プロ顔負けの素晴らしいテクニックを期待したが、残念。その中で、最優秀に選ばれた今井君のプレゼンテーションは比較的上手で、提案も他の建築的な案と比べるとアート的で面白かった。技術的には問題があるが、単に、メタリックな雲みたいな物体が宙に浮かんでいるというシンプルさが力強かった。石川君の案もまた雲のイメージであった。意識したかわからないが、私の事務所で手掛けたロスアンジェルスのコンペ案「アーツパーク LA 」という劇場のデザインと似たところがあった。しかし残念なことに、ずれたウエーブの集合体は少しうるさすぎ、本来の美しさが生かされてなかった。また、せっかくアーチを利用しているのに、中に柱を建てたのは惜しかった。佳作の三笠君の案は、メンブレイン構造らしく風車みたいで、ダイナミズムがあったが、フルにポンテンシャルが生かされていなかった。丸橋君の案は、昔のアーキグラムを思い出させるモービル建築のようだが、変化あふれるボリュームたっぷりの内部空間は、わけがわからなくとも、なんとなくエキサイティングであった。結局、全体的にはメンブレインが持つ特長が、今一つ、生かされていなかった印象を受ける。今後、この辺りをもう少し期待したい。

團 紀彦

バザールとメンブレイン、時を越えて存在する事象と時の先端を走るテクノロジーをどう結びつけ昇華させるかが問われた。応募案には、時代の流れなのか、本当の意味でテクノロジーの新しい地平を純粋に切り開こうとした案は極めて少なかった。だが、新しい「何か」を模索しようとするエネルギーが感じられる案もあった。その「何か」とは、大別すると「表現」と「現象」であったと思う。「表現」を最終目標のひとつに定めた案はストレートにメンブレインが形成した形をどう思うかと問いかけてくる。フォルムに強いものが多かったが、「バザールはどこなのか」といいたくなる程テーマ性との結びつきが弱いものが多かった。一方、「現象」つまりデザインの社会における効果に関心を示した案は、どのように「バザール」を喚起するかという客観的な姿勢は評価できたが、「表現」の弱さはいなめなかった。優秀賞の石川案はこの意味で「表現」を志向するグループの代表のひとつだ。そのストレートさ故に迫力と表現力を感じたが、逆に物足りなさも感じた。最優秀賞の今井案は「現象」の部類に属する。古典的な意味でデザインされたオブジェクトは何もないが、極めて実体の薄い浮遊する皮膜が、実体としてのバザールを喚起する点に着目したエスプリが評価された。

小宮山昭

課題のバザールは、材料と空間がはまりすぎている。すぐできそうな課題を、コンペでどこまでひねれるかと期待した。概括すれば、ハイテクノロジー案、仕掛けのアイデアによる可動案、緑や水を求めるエコロジー案、都市の隙間を占拠する戦略案、人が楽しく集まるハッピー案。予想通りの雑多さだった。最優秀案は超伝導という不可解なテクノロジー案。軽快な旅というバザールの性質のひとつが極限に行きついた感がある。生々しい物欲空間が詩情をもち、彼方へ飛び去る。プレゼンテーションも巧みだったが、実現性はどうか。優秀案には疑問を持った。ひとつのアイデアを繰り返して複雑にした点と形態が情緒的な流行に近い点である。佳作では御厨案を推した。バザールはふわふわしたアモルフな形態でなく、多くの物と人が出会い明快な動線システムを持つ場だ。テントの動きがその意味性に関連しているようだが、システムがよく解らず残念。木村案はエンバイラメンタルアートのほうに近い。膜で音がどれほど変わるかは定かでないが、視覚も聴覚も臭覚も取り入れた共通感覚として考えれば、抜群の案になったと思う。富澤案はローテック風で好感が持てた。濱嵜案は高速道路の下という場所選らびとデコン的形態で、既存の価値感に問題を持つという姿勢に同意した。
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