審査講評
菊竹清訓(審査委員長)
膜構造への社会的期待は次第に大きくなってきているし、これを受け止める法的整備も徐々に進んでいる。そういうなかで、膜構造のイメージは大きな拡がりをもつことができ、アイデアの自由度も大きいと思っている。
こういう未知の課題に若い人達が、どんどん挑戦する意欲を私はまず評価したいと思う。しかしなかなか膜のデザインは容易ではないが、それは当然のことで、これが未知の未知たるところである。
そういうなかで、おもしろいと思ったのは、入選の藤井案で、この案をわたしが推した理由は(1)場所の選定がよい。ハイウエイのインターチェンジという、やむを得ずとられたスペースを再び自動車のために生かすというところであった。つぎに(2)形の自由がある。敷地の形状に制約されるが、ほどよくそのまま利用もできて、それが形になるところがミソである。(3)また景観としておもしろい効果があるところも悪くない。一応、膜に適したスペースであるが、欠点となるのは、もしエアードームにすると排気ガスが問題となり、フレームにしたとしてもハイウエイの騒音はそのまま入ってくる。この案の弱点は、キャンプ場としての工夫として、たとえば地形的起伏をデザインに生かすなど、もう一工夫欲しかったところである。この他に興味深い案としては、町田案、槻橋・大河内案、矢部・田賀案などがあったし、また可愛らしいデザインには、堀・山口案、佐藤・葛野・牛山・武部案、山下案などが目についた。また、膜の新材料や技術開発が可能であることを前提とすれば、片桐案、栗田案があった。とくに愉快な未来型の特別賞ものは福田・遠藤案のオートキャンプ・シュミレーターであろう。以上全体を通じて、プレゼンテーションに今一歩の工夫が欲しいということである。私も教師の一員として責任を感じるが、この原因は若干、大学のデザイン教育にも問題があるように思う。この種のコンペで条件をゆるくしているのは、条件設定に枠をはめていないことがあげられるが、これは決して条件なしということではない。もっとうまい条件の決定と、その解決というオーソドックスなデザイン・アプローチとそのプロセスに期待している。
それにつけても提案がある。それは膜構造の展示室(博物館の前身)が欲しいということである。一般の人々でも、学生でも、今日どういう膜材があり、構造があるか、模型でいいから、計画されたり、実現した世界の膜構造の展示を直接見ることができ、その解説を聞くことができ、関連する図書が閲覧できるような場を何とか小規模でもいいからもちたいということである。今後の社会的ニーズに答え、これらのコンペの質を一挙に高める上で、これは有効に役立つのではないか、そろそろこうした問題もコンペを募集する側で検討していただきたいように思う。
それにしても膜構造の審査は、建築のほかのコンペと違って議論が多く、非常にエキサイティングである。そして入選者が地域に幅広く分布し、東工大付属や海洋工学など、エンジニアリングの領域から参加が見られたことなども、このコンペのひとつの特長といえるだろう。
もっと建築以外の機械や土木などからのコンペへの応募があって多彩な展開となることを希望している。
膜構造のコンペはそうした期待に答える極めて魅力ある世界であることは町がいない。
学生のためのメンブレイン・デザイン・コンペの審査は大変和やかな雰囲気の中で進められ、私にとっても、なかなか楽しいものであった。それは何よりも、このコンペに応募した学生諸君の取り組む姿勢に、楽しい夢が見えたからであるといってよい。しかし、全般的に、夢のある作品といえばそれまでだが、あまりにも現実の物理現象を正確に理解していない諸君が多かったのには、驚くほかはなかった。やがてやってくる21世紀を見通して、未来を夢見る科学的な心を養って欲しい。
最優秀作「DIGITIZED SPIRAL」の、スパイラルに配置されたチューブから水を噴霧するというアイディアは、豊かな自然を描いた達者なパースと共に、現実可能な夢を描いて見せてくれた。惜しくも最優秀賞を逃した「蛍の宿」は、光る膜材料とそれを構成する高強度の繊維の開発を期待する提案で、技術開発を促す今日的な案といってよいだろう。近い将来に、現実が可能となるであろうことを思わせるに十分な提案で、若い人の中からこのような発想があったことを嬉しく思う。
惜しいことに、コンペのテーマである「オート・キャンプ」にかかわる表現が欠如したことが優秀賞に留まった主な理由である。しかし、残念がることはない。君の提案はいずれ現実のものになるであろうことを期待してよいし、いつまでも新しい技術へ挑戦する心を忘れないで欲しい。
「Moskow-Peking by Solar Sailer」も新しい無公害技術と雄大なキャンプ場を組合わせたもので、その夢には男らしさがうかがえて好感が持てる。「Under The Tree」はメカニカルな動く構造物を追求して、宇宙時代へのつながりを思わせてくれたけれど、メンブレインとの組み合わせには、もう一工夫欲しかった。
「都市のしゃぼん玉」も実現できるかどうかは別として、索漠とした都市生活に投じた楽しい提案といえるだろう。
以上、注意をひいた作品を取り上げてみた。夢は夢として育てる必要はあるのだけれど、膜のような柔らかい材料を扱うときには、とくに物理的現象を正確に理解して、その上で壮大な夢を描いて欲しい。
「オートキャンプ」というテーマは一見自由度に富み、展開しやすそうでいて、その実大変難しかったものと思われる。自然と人間の営みの関係を、膜を使って表現することは、素材のしなやかさを考えるとイメージとコンセプトの結びつきは、きわめて素直で容易のはずだ。しかし、他方でこの媒材の新しい表現の可能性や使い方のアイデアをもって、新鮮な風景と光景を創造することは予想外の困難さを伴うものであったことが、登録数に比してこの応募数の減少したことからもうかがえる。ところがそのためか応募案のなかには都市に場面を振ったものもあった。この困難を越えての応募作には、その制作の苦闘の過程が一様に感じられて、入賞のいかんにかかわらず、さわやかな審査体験であった。
「Degitized Spiral」は技術的なアイデアが先行したのか。作品はどことなく農業施設を感じさせ、もう少し魅力がある情景を創造できたのではないかと惜しまれる。課題の「オートキャンプ」といった要素がもっと積極的に生かされていれば、背景としている大きな自然と、人間との習合関係をよりインパクトのある出会い、体験として感じさせることができただろう。
同様のことが「蛍の橋」についてもいえる。イラストでうっすら表現されている車をもっとポジティブにするだけで、ハンモックを巨大にした橋と水の涼しさを感じる"人の宿"によってつくりだされるキャンプサイトの楽しさが実感をもって訴えられたように思う。
しかし、この2作は、いささか補強を加えれば現実可能であろう。いずれにせよ技術的なアイデアからイメージを魅力的にいきいきと実現像化していて、その設計と建築のプロセスは、私にとって興味深く、こうしたことが、他の作品との差を際立たせているように思う。
特別賞のなかでは"PERSINAL NEYWORK"(趣味を誤解されそうだが)が膜一枚の異世界をつくる力を感じさせ、"擬想"(正直に建物を表現しすぎてカモフラージュしそこなっているが)、"失われつつあるもの"(これも技術的アイデアをもっと魅力ある表現に発展させてもらいたかったが)"PLAY WITH"(自然の音の魅力は、そのままではいわゆる音楽とは結び付かないと思うが、インスタレーションが人間のための空間や環境づくりのインターフェイスとなっていて)好きだ。
全体を通じて、強烈なインパクトを与える作品が少なかったように思う。募集要項に全く当てはまらないような作品もあった。主催者が求めているものを正しく理解し、一見してわかるような明快なコンセプトをつくり上げ、さらにそれを表現するという点では各作品ともまだまだ工夫が必要だと思われる。特に模型で応募した作品には、模型でしかできない発想と表現とを期待したが、これは難しかったようだ。いずれも図面で考えたものを単に模型化したにすぎないような作品が多かった。残念である。とはいうものの、時間をかけてじっくり眺めればそれぞれの作品にはそれぞれの魅力がある。17点の入賞作品はいずれも力作ぞろいであるが、中でも気に入ったものをいくつかあげる。
優秀作品となった槻橋・大河内案はスパイラルに曲げたチューブの中に水を通すことで生じる、まっすぐに伸びようとする力を利用するというアイデアが気に入った。全体の構成にも無理がなく、自然に美しく収まっている。優秀作品の片桐案はいささか橋に力点がかかりすぎた点が惜しまれるが、メンブレインでつくられてスムースな形が自然とよく調和している。美しい作品である。
特別賞作品の中では山下案がよかったように思う。作者の意図は吹き流しで音を出すことのようであったが、むしろ広々とした自然の中でゆったりとひるがえる吹き流しの美しさの方にひかれるものがある。特にメンブレインで空間を囲い込みにいったものが多かった中で、この作品は目立つものがあった。
今回の特色としてコンペの提出方法に模型での提出が加わったことが挙げられる。10点程度の提出を見たわけだが、予想に反して内容は惨憺たる結果のものだった。そこでメンブレインの模型表現、模型制作法などのベイシックな教育の必要性を強く感じたわけである。多分、少数の例外を除いてそれらが建築教育に取り入れられたことはないかもしれない。もうひとつ、今回大変、物足りなく感じた事柄に、膜建築だからこそ可能な、空間創出の提案に乏しかったことが挙げられる。最優秀の槻橋・大河内案は、総論のおさえのしっかりとした作品ではあるが、各論においてメンブレインの形態や、キャンプ施設と車の関係等の表現の乏しさに物足りなさを感じた。また優秀賞の片桐案は、膜面構造を有するブリッジの提案に重きが置かれ、テーマに対する表現の欠如が問題を残したがメンブレインアーキテクチュアと光による環境提案には見るものがあった。
他の作品で目についたのは栗田案のノスタルジックな視点、山下案の音を演出したもの、また町田案の色彩による自然との融合などに見られたメンブレインのもつ詩的な面からの環境提案が挙げられよう。また「場」の設定に興味をひいたものもある。たとえば都市に内包された形、また海上オートキャンプ場などがそれである。中でも福田・遠藤案のバーチャルリアリティ疑似体験の案はいかにも時代を反映していておもしろい。横田案もオートキャンプ時代を考えるときの交通網整備という基本的な問題にふれており、意義がある。現場にあるものからのメッセージとして伝えたいのは、膜建築はコンピュータ技術の発展とともに現代建築の仲間入りをした建築の新分野であり、未知の分野を多く残したデザイン手法であるということである。無論、われわれ建築や都市計画を志す者の最終テーマが "人づくり "にあることはいうまでもない。自然と文明の関わり合いが強く問われている今日、膜の建築物により創出される環境がわれわれに何をもたらし、何を将来に問いかけることができるのか、その環境表現の基本的再認識が強く望まれるところである。
竹山実
テーマ「オートキャンプ場」の解釈をめぐって、多様な案がひしめき合った。こうした案の多様性がそのまま現代の欲求の表徴といえるのかもしれない。それは全体と個あるいは「自然」と「人工」といった環境の多様な側面に向けた創造性の発露ともいえるだろう。
最優秀賞に選ばれた槻橋・大河内案は、螺旋形の持つシンボル性と、自然に浸った非日常性をうまく関連させた点が票をうばった。メンブレインと「水」のからみ合いに、いささか技術的な無理を感じなくもないが、自然のスケール感の把握は安定して私も好感がもてた。
技術的無理を承知で同情を得たのは、優秀案のほうかもしれない。橋にみられるようにメンブレインを架構体として扱うことはできても、発光体として利用することは現状ではかなりむずかしいだろう。それを承知で票を集めたのは、無垢なアイデアの強さであり、それを展開させたイマジネーションの力だろう。「レジデンス・ユニット」が未解決な点が私にはかなり不満な点として残った。
特別賞の5点の内で私がもっとも気にしたのは福田・遠藤案の「DATA SUIT」である。われわれの環境意識に全体的な秩序の回復を求められれば求められるほど、一方で個人化した解放が進まざるを得ない。そうした両極にカウンターバランスの必要性があることをこの案は訴えているように思える。表現を換えれば個の意識世界にどこまで全体像を包摂できるのかーといった問いかけをこの案はグサリと浴びせつけているようだ。
山下案のスケール感も私は気に入った。音の世界とのからみも悪くない。「法竹」という、古来から伝わる楽器の音色を連想させた。
栗田案には、今後メンブレインが素材として伸縮性を加えてゆき、プラスチックな物質世界がよりプラスチックに展開するであろうといった予兆にみちた暗示がある。
入選10点の内では Linden案と富沢案が面白かった。テーマを拡大解釈したせいか前者には自動車の指摘が何もない。これは汽車の魅力と風のさわやかさを皮肉っぽく訴えかけている。後者は、いわば「無用の用」をポエティックに描いているが、実のところ「キャンプ場」に求められるわれわれの欲求の真髄は、こうした非物質の世界そのものなのかもしれない。
茶谷正洋
槻橋・大河内案/渦巻きになったテントに添う霧が新しい風景をつくっている。とても達者な表現。
片桐案/橋のように架かる膜が光ってシンボル的な効果が楽しい。素直さを買う。
福田・遠藤案/逆転した発想。
矢部・田賀案/大陸的な夢。
山下案/本当に美しい音楽になるのかな。
町田案/カメレオンのような膜がつくれたら面白い。
栗田案/ユーモラスだが長く続く風景は、逆効果かもしれない。
石川案/不思議な魅力あり、どんな実感か味わってみたくなった。
堀・山口案/なんかよくわからないが詩のよう。
横田案/渋滞する高速道路を使わずに済みそう。
富沢案/子供が風船で遊ぶ気持ち。
水野・山本案/極彩色にみとれた。
佐藤・葛野・牛山・武部案/ふくらんだりしぼんだりするらしい。走っているとじゃまのようでもあり。
溝畑案/星明りをみる童心にかえれる。
高橋・関戸案/車で引っ張ってつくるという楽しみ方を見つけている。
藤井案/遠心力がかかっている時に、なお迷路性を加えて大変だなあ。
Linden案/動く家の楽しみを満喫できる。
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