第8回メンブレイン・デザイン・コンペ'93
審査講評


黒川雅之(審査委員長)

たいへん楽しい審査会だった。テーマ自体が所帯じみてもいないし、この不況の暗さを吹き飛ばすものだったから、どこまで人間の勇気や、しばられない自由な発想がみられるか、審査にかかる以前から楽しみでもあった。「スーパースペース」というテーマが、大きいことではない、小さくても"スーパー"であることが大切だと要項でうたっているし、「棲む」というテーマも、"住む"ではないところにちょっと発想を変えればなんでもよいようになってもしまうから、テーマを突き抜ける発想の力だけが求められていると解釈できるものであった。
突出した案があったとはいい難いが、1等案(ホセ・マリア・バクエーロ+ブルース・ダンジガー)ははじめの投票では5人全員の票を得た。
そういう案はえてして全員がまあまあと思っていて、ベストではないことが多いが、議論の末、1等を獲得した。
1等案は、僕にはなつかしいあの1960年代のVisionary Architectureを想い出させるもので、60年代の夢と力をふたたび見た気がした。それも"grapes"と"leaves" の植物のアナロジーによって環境の制御機械としての都市をソフト表現していた。
2等案(チャールズ・L・サンチェス)は、人体との、近いところでとらえた衣服のような建築で、1等案の衣服のような都市とセットとなり得るものにも思えた。柔らかい環境をつくるメンブレインの華麗な表現が得られていると思った。

岡部憲明

1等案(ホセ・マリア・バクエーロ+ブルース・ダンジガー)は、リーフ(葉)と果実に象徴させながらふたつの膜の要素を組み合わせている点が注目できる。リーフと果実の間が自由に流れる空間であり、ふたつの膜の対峙の中に環境コントロールのファクターを組み込んでいることで、豊かな技術的・環境的可能性を予感させる。ソフトなタワーの剥離された表現も面白い。膜自体の可能性がより意識されてもよかったという点が気にかかったが、充実したアプローチの作品と考える。
2等案(チャールズ・L・サンチェス)は、身体性へとかぎりなく密着して、きわめて日常化した表現がよい。膜(シーツのような)とフレームとの不都合な形態が逆に新鮮なイメージ与えてくれる。
3等案(ジョセフ・I・ロレンス+アルフォンス・ソルデヴィラ)は、堅い壁と変形し流動する膜の交叉の中に、ひとつの新しい空間機能の構成が見られ、物語性としての興味を喚起してくれる。ソフトな部分のより明確な展開があるとよかったのではなかろうか。
佳作では、S.U.カマット+P.C.キング+C.R.リチャーズ案の地下都市と巨大水平風車の組み合わせは、発想として興味のもてるものだが、今ひとつ突っ込んだ技術的展開が望まれる。手島浩之+岸上昌史案の腸のようなオーガニックな形態と変移の表現には、空間的・形態的可能性が秘められていて、興味深い提案だったと思った。

隈 研吾

なぜ今、膜に人々の目が注がれるのだろうか。かつての建築のもっていたスケールと固さとを逸脱する契機を、膜が有しているからである。都市は「逸脱」を渇望している。都市のさまざまな問題は、これらの「逸脱」によってしか解決の見込みのないものであることが明らかになりつつある。膜はいよいよ激しく、渇望されることになるであろう。
膜は極大へと逸脱し、同時にまた極小へと逸脱して身体を包む衣服へと、さらには皮膚と等価なものにまで変身する可能性までももっている。その両義牲こそが、膜の最大の魅力である。
僕が興味をもったのは、2等案(チャールズ・L・サンチェス)と3等案(ジョセフ・I・ロレンス+アルフォンス・ソルデヴィラ)である。2等案は極小へと逸脱しようとする膜の、繊細で緊張感に満ちた一瞬を見事にとらえている。それは身体を指向しながらある一線を越えることのできない、ハードでソリットな建築への鋭い批判となっている。
3等案は、膜が都市を切り分ける新たなツールとなる可能性を示している。都市は住居という単位によって切り分けられるのに飽きている。新しい切り分けられ方を渇望している。その切り分けこそが棲むことの提案であって、従来の住居を単位とするカテゴライゼーションにしばられているかぎり、棲むことに関しての何の提案も不可能なのである。3等案の図面をよく読み込んで、その切り分けの鋭さにこそ注目してほしい。

半谷裕彦

建築材料としての膜の性質として、軽量・柔性・機能性がある。この3種類の性質を組み合わせることにより、種々の形態と機能をもつ建築を構成することが可能となる。
1等案(ホセ・マリア・バクエーロ+ブルース・ダンジガー)は柔性を利用した自由形態を基本に、塔状建築としてまとめたもので、外部環境への外皮としての開放的な膜と、住居空間を内包する閉鎖的な膜の対比が興味深い。
2等案(チャールズ・L・サンチェス)は、軽量と柔性を利用し、人間の可動距離に着目して筒型自由局面にまとめたもので、膜形態を通して人間の活動が浮かび上がる独特な雰囲気を有している。膜に発生する皺を膜材料の欠点としてではなく、長所とした点も面白い。
3等案(ジョセフ・I・ロレンス+アルフォンス・ソルデヴィラ)は、膜材料の有している透光性などの機能性を利用し、自然と人間生活との調和を目標とした作品である。ただし、膜デザインにはもうひと工夫が必要である。
膜を軽量な構造材としてみた場合、大空間を覆う巨大構造への利用があげられる。今回のテーマである「スーパースペース」のスーパーに対応する作品が少なかったことは残念である。その中で、佳作となった平澤智浩案と藤間信貴案は地球環境をテーマに取り上げた作品として注目される。
またS.ペレーラ+E.ケラー+K.クドー+T.ウォン案は、膜の機能性を将来への課題として取り上げた作品で、膜材料の今後の開発へ示唆を与えている。

山本理顕

難しい課題だったように思う。「スーパースペース」という大架構のイメージと「棲む」という日常性とをうまく結び付けることが難しい。日常の身体的な体験がスパースペースまで拡張されていかないのである。だから、多くの解答は「スーパースペース」の側から発想して、逆に日常の生活の側に下りていこうというような方向になっていた、というよりはむしろ日常そのものを無視することによって獲得できる解答が圧倒的に多かったとように思う。
1等案(ホセ・マリア・バクエーロ+ブルース・ダンジガー)が典型的だと思うのだけれども、ブドウのアナロジーの面白さに対して、架構とその中の生活とがほとんど無関係のようにしか見えない。図面の緻密さで少し得をした1等案であったように思う。
むしろ2等案(チャールズ・L・サンチェス)のソフトな架構のイメージとプレゼンテーションのスマートさ、そして3等案(ジョセフ・I・ロレンス+アルフォンス・ソルデヴィラ)の大げさな構造のわりには細部の生活まで表現して得ているアイデアに好感をもった。
個人的には、佳作になった平澤智浩案のアイデアが好きだ。シェルターを極限まで解釈すれば、たぶんこういうシェルターも十分に考えられると思う。静止衛星の軌道上に浮かぶシャルターである。


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