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土木
2020/10/26

膜構造で美観と長寿命化を実現 橋梁のアンチエイジング技術

高谷裕美
MakMaxプラス

老朽化した土木インフラを守るための保守点検の重要性が増す一方、街づくりという視点から課題となっているのが景観に与える影響です。社会資本としての機能は守りながら、一方で景観にも配慮したものとする。この難しい課題に太陽工業が一つの解として提案するのが『橋梁ラッピング』です。膜構造建築を応用し、橋梁を膜パネルによって覆う美粧化技術で、景観改善はもとより構造本体の長寿命化にも寄与します。

 

 

都市景観を再生し 魅力ある街づくりへ

高度経済成長期に建設された土木インフラの老朽化が進むなか、その維持管理とともに大きな課題となっているのが道路景観です。戦後復興、東京五輪開催(1964年)にともなうインフラ整備、急速な開発。それらは世界が驚愕する日本の経済成長を生み、国民生活を大きく底上げしました。しかしあまりに急速な経済発展には負の側面があったことも事実です。 2017年、石井啓一国交大臣(当時)は東京都中央区の日本橋の上を交差して走る首都高速道路の地下移設方針発表の席上「先の東京オリンピックに合わせまして、緊急的に整備された首都高速道路は首都・東京の大動脈として大きな役割を担ってきましたが(中略)貴重な水辺空間を消失するなど、都市の景観や快適さを損なうこととなりました」と発言。その上で「単なる老朽化した首都高速の更新にとどまらない、魅力ある都市景観の再生」に向けて取り組む考えを示しています。

「いかに現状の資産を有効に活用し、未来へと引き継いでいくか」 その命題に太陽工業が一つの解として提案するのが膜構造を利用した『橋梁ラッピング』です。橋梁の主桁間と側面張り出し部にパネル状の膜材を貼り付け、むき出しの構造部分をカバー。汚れや腐食から守り、無機質で暗いイメージの高架下の環境を大きく改善するのにくわえ、点検足場への応用も可能とするものです。

(『首都高・新技術』に、国交省の『NETIS(新技術情報提供システム)』登録書)

 

スタジアム、アリーナ、駅 幅広い建築で利用される膜構造

膜構造は土木の世界では馴染みが薄い建材かもしれませんが、スタジアム、アリーナなどのスポーツ施設のほか、商業施設、駅など幅広い建築分野で利用されており、デザインの自由度、安全性・耐久性において高い評価をいただいています。1988年に完成した東京ドームの膜屋根は、完成以来一度も交換することなく現在も充分な機能を果たしています。

 

膜構造の特徴1 軽量性・柔軟性

膜材は1kg/m2と鋼板などの化粧材に比べて極めて軽量。変形追従性にも優れているため、地震の揺れに対しても膜がその力を吸収するため、柱など下部構造への負荷を大きく抑えます。ガラスサッシ、金属などと異なり、破断した場合でも即落下にはつながりにくく、万一落下した場合でも軽くて柔らかい素材のため、人や車両などを傷つける可能性がきわめて少ない素材です。

 

膜構造の特徴2 長寿命

膜材料はそれ自体が錆びたり腐食することがないため、塗装や塗り替え等のメンテナンスが不要です。

 

膜構造の特徴3 明るさ性能

膜材は日射反射率約80%、紫外線カット率約99%、可視光透過率は約13%。他の素材と比べてもきわめて明るい空間を膜下部に実現します。

 

膜構造の特徴4 デザイン性

軽く柔らかい素材によって曲面形状をはじめ、さまざまな個性的なデザイン要求に答えることが可能です。

 

膜構造の特徴5 環境性能

膜材は製造から廃棄に至るまでのライフサイクルにおいてCO2排出量がきわめて少ないのが特徴です。

エコマーク認定を取得している当社製品は、張り替え等で生じる使用済み膜材を全て回収し、有効な資源として100%リサイクルすることが可能です。 膜材には酸化チタンによる光触媒機能が施されています。光触媒には車の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の吸着・除去効果が確認されており、膜材量1000m2の1時間あたりのNOx除去量は乗用車2.2台分に相当すると試算されています。光触媒は太陽光(紫外線)と空気中の水分を利用して膜に付着した汚れを分解するセルフクリーニング機能があるため、長期間にわたって施工時の美しさを保ちます。

 

明るく圧迫感のない空間へ 高架下の印象を一変

橋梁ラッピングは先に示した膜の特長を道路の維持管理、景観改善に活かすために開発された技術です。ラッピングによる効果のなかでも、大きな特徴の一つが高架下の明るさ改善です。

膜材の可視光反射率は約80%。当社測定値では晴天時の桁下床面照度は膜材なしで2800lxなのに対し、ラッピングを施した桁下の明るさは7000lxと約2.5倍の明るさとなります。 明るい空間は高架下を利用する歩行者の利便性向上のほか、夜間時の防犯効果も高めます。

高架下に膜材を配することは、橋梁走行車両の音を低減する効果もあります(約−15dB)。また下面形状がなめらかになることで風の流れをスムーズにし、風切り音を低減させる整風効果もあるとされています。

都市高速の多くの高架下は直接通行に供しない土地であるだけに、有効利用すべきという声は古くからありましたが、道路管理上の観点から利用はごくわずかに限られてきました。そうしたなか国交省は2009年、「その暫定利用を含め一層の有効活用をすべき」という通達を出しています。これまでも駐車場、駐輪場などへの利用はありましたが、橋梁ラッピングによって明るさ、音、印象がガラリと変わること。膜構造の耐震性能の高さ、覆った膜材が道路構造部材の落下を防ぐ効果があることなどから、公園や保育園・幼稚園といった、地域ニーズに即した空間利用へと広げることにもつながるでしょう。

 

腐食や劣化を防ぎ メンテナンスコストを大きく改善

一方で橋梁ラッピングは単に景観を改善するだけでなく、道路構造体の維持管理性も向上させます。 高架下の汚れの原因の一つに、鳩などによる糞害があります。高架下への落下による通行者への影響、美観の問題のほか、放置しておくことは目視点検の妨げにもなります。天井部にネットを設けるなどの対策を施しているケースもありますが、橋梁ラッピングは膜で高架下を完全に覆ってしまうため鳥が巣をつくったり、集まる心配はありません。 特に沿岸部などで深刻な腐食の原因となる塩化物の付着も、膜で覆うことで大幅に抑制することができます。維持管理のための防食塗装や定期的な塗り直しが不要となるため、メンテナンスコスト削減にも貢献します。

高架下が一般車道となっている場合、車の排ガスも汚れの大きな原因となります。橋梁ラッピングによって構造体を覆うことで排ガス汚れを防ぐのはもちろん、ラッピングに使用する膜材には光触媒機能が備わっているため、膜に付着した汚れを紫外線と空気中の水分によって分解し、美しい景観を長期間にわたって維持します。 光触媒機能には排ガス中に含まれる大気汚染物質であるNOx(窒素酸化物)を分解除去する機能もあります。試験データによれば1時間あたり乗用車12.6台分に相当するNOx除去量があるとされています。

 

高い照明との親和性 道路構造体が街のアイコンに

橋梁ラッピングによる景観改善効果が顕著に現れる場所として、駅前、繁華街があげられます。都市部の高速道路は鉄道路線、駅上、繁華街を貫くように走っているケースもありますが、こうした場所に橋梁ラッピングによる明るい空間を生み出すことは、駅利用者、繁華街を歩く人々の利便性、防犯効果を高めるだけでなく、空間の価値を向上させることにもつながるからです。

たとえば地域再開発等と連動し、独特の曲面構成を施したデザインとすることで、道路構造体が街のアイコンの役割を担い、街の賑わいを生み出す効果も期待できます。また膜構造の特徴として、照明との親和性の高さがあります。商業施設などでは季節や催事に合わせたライトアップを施す事例がありますが、これを道路構造体に応用することで地域と一体となった振興策への貢献や、広告、道路情報、災害時などの情報提供機能を備えた、サイネージとしての利用も考えられます。

 

高架の維持管理が変わる 膜構造を点検足場に利用

橋梁ラッピングで利用する膜材パネルはそれ自体、一定の強度と耐久性を保持していますが、太陽工業ではさらにこの荷重設計を強化し、常設の点検足場(膜式点検足場)として利用することを可能としています。

2014年に改正施行された「道路法施工規則の一部改正する省令」では、橋梁・トンネル等は国が定める統一基準によって5年に1回の頻度での近接目視点検を行うことが義務付けられています。小さなクラックなどを見逃さずにチェックする点検作業は非常に神経を使いますが、従来の作業環境は暗所となるなど必ずしも快適とは言えません。

膜式点検足場はアルミパネルなどと異なり、閉鎖空間でありながら暗所とはならず、膜を通した柔らかい拡散光が内部を明るく保ちます。当社測定値では張り出し部内部で29000lx、主桁間内部でも1900lxとなっており、作業場照度を十分に確保した明るさを持っています。作業にともなう点検設備の設営、照明などが不要になるほか、膜を透過した拡散光は日陰を生じさせないため、手元確認作業の視認性向上など作業効率改善に貢献します。 また風の強い日など、屋外作業の際には支障をきたす条件の場合も、膜式点検足場なら点検作業を遅延なく進めることが可能となります。


>>道路の保守点検に膜というイノベーション

まとめ

道路構造体での膜構造の利用は、今回ご紹介した橋梁ラッピングだけではありません。半地下道の車路における眩光対策用のディフューザー、冬場の道路凍結を防ぐスノーシェルター、ゴルフ場からの飛球防止シェルターの事例や、料金所、SA、PAも含めればシェルターなど多くの場面で用いられています。

しかし軽量性、耐朽性、耐候性、透光性という膜構造の特徴。何より橋梁ラッピングでご紹介した景観改善、施設保護の機能を考えた時、膜が果たす役割は現状にとどまるものではありません。太陽工業は膜にできること、膜にしかできない価値を追求し、暮らしに不可欠な道路という資産を、より安全・安心で快適なものとするために貢献していきます。

ディフューザ

スノーシェルター

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