太陽工業コラム

若手の離職率を改善したい─太陽工業が工事日報で挑んだ現場改革

本記事は株式会社ミライ工事が主催したセミナー『ご担当者必見!現場代理人の社内満足度を企画部が建設DXで向上させた実例』の内容を抜粋した記事となります。

「また一人、若手が辞めた」
そんな声が社内に響くたび、太陽工業の建築技術企画部 岡本さんは危機感を募らせていました。 

実際、ある年の工事系若手社員の離職率は40%に達していたといいます。政府統計(約38%)を上回るこの数字に、「現場の働き方を変えなければ未来はない」と岡本さんは強く感じたそうです。

離職理由の一因にあった「日報がつらい」という声

若手社員へのヒアリングで明らかになったのは、事務作業への不満でした。 

「現場が終わってからの事務作業が大変で、残業が多い」
「特に日報を書くのが面倒くさい」 

太陽工業では、従来はExcelで工事日報を作成していました。作業内容の記述と写真貼付に時間がかかり、早い人でも3040分、新人だと1時間以上かかることもあったそうです。 

このような“やらされ感”のある業務が、離職の一因になっていたと岡本さんは振り返ります。

「現場を変えるには、業務を変えるしかない」──日報の共同開発がスタート

こうした状況を受けて、岡本さんは社内の課題を解決する手段として「工事日報」の改善に着目しました。そして、工事写真アプリとして導入運用していた株式会社ミライ工事と、施工管理アプリ「ミライ工事管理(旧名称:ミライ工事DX」上での工事日報機能の共同開発をスタートさせました。 

岡本さんは次のように話しています。 

「ミライ工事の写真台帳機能をベースに、直感的に写真を選んで日報を作れないかと考えました」 

Excelで写真を探して貼り付ける作業の煩雑さを解消するため、操作性と効率性を重視した日報機能の設計が行われました。

社内承認の鍵は「1日70円で残業削減」のロジック

共同開発にあたり、社内の承認を得るプロセスも工夫されました。

岡本さんは、ミライ工事からの見積もり金額を「工事部門の人数で頭割りし、1人あたり1日70円程度」と試算し、「このコストで毎日の残業が30分減るなら十分に価値がある」と訴えました。

「記録のストックもできて、チームで共有できる。これが70円で実現できると説明したんです」

数字に裏付けられた説明が評価され、工事本部のマネージャー層からも賛同を得て導入が決まりました。

変化①:残業の削減と業務効率の向上

導入後、現場ではさまざまなポジティブな変化が生まれました。

  • 日報作成時間の短縮:スマートフォンから簡単に記入できるようになり、残業が20〜40分削減されました。
  • 写真貼付がスムーズに:写真台帳からそのまま画像を選べるため、探す手間が大きく軽減されました。
  • 記録の蓄積と共有が容易に:QRコード付きのPDF台帳がリンクされ、関係者がいつでも確認可能になりました。

また、設計担当が現場の様子を視覚的に把握できるようになったことで、「現場理解」が深まり、部門間の連携強化にもつながっているとのことです。

変化②:若手社員の定着と日報の質の均質化

日報の電子化によって、作成のハードルが下がったことで「質が安定した」と岡本さんは語ります。

「定型文やプルダウンが整っていて、書き方の“行儀の悪さ”が減りました」

また、導入後の約2年間は若手社員の離職がほとんど見られなかったとのことです。

「ミライ工事のおかげか、待遇改善のおかげかはわかりませんが、離職率は確実に落ち着いています」

浸透の決め手は「強制しない仕組み」と「口コミ」

太陽工業では、アプリの利用を強制することはありませんでした。代わりに、現場の一部社員をモニターとして開発段階から巻き込み、「便利だった」という実体験が口コミで広がっていく構図がつくられました。 

その結果、導入後23週間で89割の社員が利用を開始したといいます。 

「“使わないと損”という空気感が自然にできていったのがポイントだったと思います」 

業務を変えることで、離職と向き合う

今回の取り組みは、「人の問題を、業務設計から解決しようとした」実践的なDX事例です。
岡本さんの言葉を借りれば、

「記録がストックされ、いつでも誰でも見られる仕組みをつくる。それが未来への備えになる」

工事日報という日常業務の改善から始まったDXが、若手の働き方、チームの文化、組織全体の信頼関係に波及していった姿は、建設企業にとって示唆に富んだ事例と言えるでしょう。

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