『多面的機能支払交付金』とは?農地・水路・農道の維持事業などで助成金を受け取る方法
高谷裕美
農地法面の草刈り、水路の泥上げ、農道の路面維持などを検討している農業従事者の方は、条件によっては農林水産省から助成金を受け取れる場合があります。
『多面的機能支払交付金』という助成金制度について、支援の条件や受け取りの方法、活用事例などを詳しく分かりやすくまとめます。
「助成金制度などは分かりにくい…」と敬遠せず、まずはご覧ください。
多面的機能支払交付金とは?
『多面的機能支払交付金』は、農業や農村が持つ多面的な機能の維持や、機能の発揮を図るための地域の共同活動を支援し、地域資源の適切な保全管理を推進する目的で設立された助成金制度です。 農村の過疎や農業従事者の減少を受けて、地域共同で行う多面的機能を支える活動や、地域資源(農地、水路、農道等)の質的向上を図る活動を支援してくれます。
対象事業ごとに、以下の2つの交付金に分化されており、対象組織などが異なります。
- 農地維持支払交付金
- 資源向上支払交付金
農地維持支払交付金の概要
『多面的機能支払交付金』のうち、「地域資源の基礎的保全活動等の多面的機能を支える共 同活動を支援」するのが『農地維持支払交付金』です。 担い手に集中する水路や農道等の管理を地域で支えることによって農地集積を後押しすることが目的であり、以下のような事業が支援対象になります。
- 農地法面の草刈り
- 水路の泥上げ
- 農道の路面維持
- 農村の構造変化に対応した体制の拡充・強化
- 地域資源の保全管理に関する構想の策定など
資源向上支払交付金の概要
一方の『資源向上支払交付金』とは、「地域資源の質的向上を図る共同活動、施設の長寿命化のための活動を支援」するものと定められています。
こちらの支援対象は、以下のとおりです。
- 水路のひび割れ補修・長寿命化のための活動
- 農道の窪みの補修・長寿命化のための活動
- 植栽による景観形成やビオトープづくり
- 組織の広域化・体制強化
多面的機能支払交付金の対象となる組織
交付金を活用した取組を行うためには、『活動組織』もしくは『広域活動組織』のいずれかを設立しなければなりません。『活動組織』とは、次のように定義されています。
- 農業者のみで構成される活動組織
- 農業者及びその他の者(地域住民、団体など)で構成される活動組織
(出所:農林水産省ホームページ)
一方、『広域活動組織』とは「旧市区町村単位等の広域エリアにおいて、集落(活動組織)、土地改良区、地域の関係団体など、地域の実情に応じた者から構成される、構成員間の協定に基づく組織」であると定義されており、設立にあたっては年間4万円~16万円の支援を受けられる場合があります。
- 農業者のみで構成される広域活動組織
- 農業者及びその他の者(地域住民、団体など)で構成される広域活動組織
(出所:農林水産省ホームページ)
農地・水路・農道管理など、多面的機能支払交付金の対象となる事業
『多面的機能支払交付金』では、次のような事業の実施に対して支援を受けることができます。
- 地域資源の基礎的な保全活動
- 地域資源の適切な保全管理のための推進活動
- 施設の軽微な補修
- 農村環境保全活動
- 多面的機能の増進を図る活動
- 施設の長寿命化
- 組織の広域化・体制強化
地域資源の基礎的な保全活動
農用地・水路・農道などについて、施設の点検・年度活動計画の策定・実践活動(計画に基づいた農地法面の草刈り・水路の泥上げ・ 農道の路面維持など)を毎年度実施する場合、支援を受けることができます。
地域資源の適切な保全管理のための推進活動
話し合いによって地域資源の保全管理の目標を定めたり、目標に即した取組を実施したりしながら、将来にわたる構想を策定を行う場合、支援を受けることができます。
(出所:農林水産省ホームページ)
なお、「※1」の推進活動とは、以下のようなものを指します。
- 農業者(入り作農家、土地持ち非農家を含む)による検討会
- 不在村地主との連絡体制の整備、調整、それに必要な調査
- 地域住民等との意見交換・ワークショップ・交流会など
また、「※2」は、活動・方策をとりまとめたものであり、活動期間中に策定する必要があります。
水路や農道などの施設の軽微な補修
農用地、水路、農道などの機能診断や補修を毎年度実施する場合、支援を受けることができます。 補修工事だけでなく、以下の活動を含めて支援の対象です。
- 計画策定・機能診断
- 実践活動(工事)
- 研修
農村環境保全活動
農業や農村の多面的機能である生態系の保全、景観形成などの農村環境の保全を図るための活動について、テーマを選択して毎年度実施する場合、支援を受けることができます。
こちらは以下の活動が対象です。
- 計画策定
- 啓発・普及
- 実践活動
多面的機能の増進を図る活動
地域の創意工夫に基づく以下の8つの活動のいずれかに加えて広報活動を毎年度実施する場合、支援を受けることができます。
- 遊休農地の有効活用(地域内外からの営農者の確保など)
- 農地周りの環境改善活動の強化(鳥獣被害防止のための対策施設の設置など)
- 地域住民による直営施工(農業者・地域住民が直接参加した施設の補修など)
- 防災・減災力の強化(災害時における応急体制の整備など)
- 農村環境保全活動の幅広い展開(景観の形成など)
- やすらぎ・福祉及び教育機能の活用(医療・福祉施設等との連携強化など)
- 農村文化の伝承を通じた農村コミュニティの強化(行事の継承など)
- 上記のほか、都道府県が実施要綱に基づく基本方針において対象活動とすることとした活動
水路などの施設の長寿命化
老朽化が進む農地周りの農業用用排水路や、農道などの施設の長寿命化のための補修などを実施する場合、支援を受けられます。 これについては、記事の最後に実際に助成金を活用した事例を紹介します。
組織の広域化・体制強化
組織を大きくすることで活動の効率化を図ったり、組織をNPO化したりしたい場合、支援を受けることができます。
多面的機能支払交付金の対象となる農用地
助成金を受け取るには、対象となる農用地の条件に合致している必要があります。 対象は、以下の2点です。
- 農振農用地区域内の農用地
- 都道府県知事が多面的機能の発揮の観点から必要と認める農用地
なお、②の詳細については各市町村に問い合わせて確認してください。
多面的機能支払交付金の交付単価
『多面的機能支払交付金』によって受け取れる助成金額は、10aあたりの単価として次の表のとおり定められています。(単位:円/10a)
(出所:農林水産省ホームページ)
なお、上記の単価に加え、一定の条件を満たすことで『加算措置』が講じられ、支援単価が増額される場合があります。
細かい条件が設定されているため、詳しくは農林水産省の問い合わせ窓口へ問い合わせてください。
多面的機能支払交付金を受けるまでの手順
以下の5つのステップを踏むことで、『多面的機能支払交付金』を受け取ることができます。 受け取ったら終わり、ではなく、その後の収支をまとめたり報告書を提出したりする必要がある点に注意しましょう。
- 組織の設立
- 事業計画の作成
- 申請書類の提出
- 活動の実施・交付金の交付
- 活動の記録・報告
(出所:農林水産省ホームページ)
多面的機能支払交付金を受けるまでの手順
最後に、実際に『多面的機能支払交付金』を活用して水路の補修工事を行った事例を紹介します。 同様の活動を検討されている方は、助成金活用の参考にしてみてください。
青森県の農地老朽化水路補修工事
件名 | 青森県天間林土地改良区 農地老朽化水路補修工事 | ||
---|---|---|---|
施主名 | 天間林土地改良区 | ||
施工場所 | 青森県十和田市 | 施工業者 | 保全隊 |
使用商品 | コンクリートキャンバスCC5 | 使用数量 | 390㎡ |
目 的 | 水路補修工 | 施工時期 | 平成30年9月 |
青森県の農業用水路の補修工事に、交付金が活用されました。 50年以上前につくられた水路は老朽化が進み、早急な補修工事が求められていました。
(老朽化・劣化した農業用水路)
水路周辺の道が細く、コンクリート打設工事のための重機の乗り入れができなかったため、別の解決策が求められていた中、交付金の活用によって採用されたのは『コンクリートキャンバス』でした。 『コンクリートキャンバス』は、水をかけるだけでコンクリート面をつくることができる特殊なシートで、重機を必要としないため細い農道での作業を可能にしました。
(『コンクリートキャンバス』で補修した農業用水路)
課題の解決に加えて短工期で補修工事ができたことなどにより、青森県は『コンクリートキャンバス』を高く評価しました。
コンクリートキャンバスに関する詳しい情報やお問い合わせは、以下のリンクをご参照ください。
>>太陽工業株式会社『コンクリートキャンバス』
まとめ
多面的機能支払交付金以外にも、複数の農業関連の助成金が存在します。
こちらの記事に概要をまとめていますので、ぜひご覧ください。
>>『農業経営者必見の助成金制度3選 │ あなたももらえる助成金まとめ』
交付金の対象になる商品については、太陽工業株式会社にお問い合わせください。
>>太陽工業株式会社│総合お問い合わせ
助成金の制度に関しては、農林水産省にお問い合わせください。
>>『農林水産省 問い合わせ窓口』
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